海宝堂〜海の皇女〜
―私の代わりはいない?―

シーファがそう呟くと、髪を撫でていたヌルドの手がすっと降りて、胸の紋章に触れた。

紋章の光は弱くなってきていた。

―そう…あなたは、この気高い海の皇国を納める王家の姫…
その唯一無二の存在に変わりがあるはずがありません―

ヌルドの言葉を聞く度に、紋章のは光を失っていく。
シーファの体からは力が抜け、完全にヌルドに寄りかかっていく。

―王家の……唯一無二の存在…―

―…そうです。
あなたは気高く、美しく、素晴らしい心を持った至高の存在。
決して首飾りと比べるような存在ではない。
あなたは、皇女として…いえ、海の女王として、この、愚かな人間達に罰を与えるのです―

―罰…もう、会いたくない…―

シーファはヌルドの胸に顔を埋めて呟いた。

―…いいえ、奴らは偉大なる海の女王を騙し、利用し、裏切ったのです!
あなたのその手で、直接、奴らに後悔と恐怖をあたえるのです!
それが、今後、皇国を納める女王の使命なのです!―

―使命…
裏切りに…後悔と恐怖を…
それが…使命…―

紋章の光は消え失せていた。
代わりにシーファの目に復讐の炎がゆらゆらと燃えていた。

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