海宝堂〜海の皇女〜
体の痛みなんかに構ってられない。
立ち上がり、なんとか蘇生を試みる。
しかし、2人が目を開けることはもう二度とない。

―うぉぉおおおおおっ!―

ガルは2人の亡骸を抱いて叫んだ。

大切な大切な、弟と妹。
血で真っ赤に染まったその服を握りしめ、ガルの涙は2人の血と混ざって流れた。

―…ろしてやる…―

誰かをこんなに本気で憎んだのは初めてだった。
殺すと呟きながら、2人をきちんと寝かせて、立ち上がる。


―やっと、終わった?―

後ろからした声に振り向く。

―お前っ…シーファっ!
無事だったのかっ!?―

そこにさらわれたはずのシーファがいた。
駆け寄り、肩に手をかける。
シーファは寂しそうに笑った。

―うん、無事。
ガルは酷くやられたね…―

額に流れる血を、指でそっと拭う。

―シーファ、奴らはどうした?今、どこにいるっ!―

―どうしたの?そんなに興奮して…ガルらしくないよ?―

―これが落ち着いていられるかぁっ!

リュートが…ニーナが…っ…死んだんだ…ぞ…
奴らに殺されたんだっ!
敵をとってやる!だから、奴らはどこだっ!?知ってるのかっ!―

肩を揺すられながら、シーファはにっこりと笑った。

―カタキ…ね。
どうぞ。チャンスは今しかないよ?―

ガルは両手を広げてみせるシーファに眉をしかめた。
手を離して、後ずさる。

―な…どういう…―

―だから、敵討ちでしょ?リュート達、殺したの私だから、私がその相手。
どうぞ?―

―冗談…はやめろっ!
何、バカな事を…―

―私は大真面目だよ。
だって、リュートもニーナも二度も私を裏切ったんだもの。
だから、もういらない。
私はこの国の皇女、シルフェリア。
皇女に無礼をはたらいたら死刑なの―

シーファの後ろから現れる影。
ヌルド、ビュウ、アーターが薄気味悪い笑いを浮かべている。

―当然、ガルも死刑だから、もう死んでね?―

ビュウが剣を高く振り上げる。

―さよなら、ガル―
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