海宝堂〜海の皇女〜
「…またその短剣か…本気で、殺り合う気があるのか?」

「なんと言われても、俺の武器はこれしかない。」

じりじりと一定の距離を保ちながら、お互いの動きを注意深く見極めながら言葉を交わす。

余裕のにじむビュウに対して、ガルの額からは汗が一筋、流れ落ちた。

正面からまともに発せられる殺意…
こんなものに長く自分の身を去らしていたら、武器がどうこう言っていう前に、気合い負けをしてしまう。

「…命のやり取りは初めてか?」

「…いや…そうでもないが、お前みたいに、戦いの動機が分からないのは初めてだな…」

「―ふんっ!」

ビュウが先に動く。
無駄の無い動きで、確実に剣を繰り出す。

「―くっ!
いきなり、目かよ…
(初めて会った時といい、致命傷狙いの攻撃をしときやがる…)」

ガルの頬にもう一本、傷が刻み込まれた。

「どうやら…避けるのだけは上手い…」

ニヤリと口端を上げると、剣を繰り出す。
今度は心臓の位置―

「――っ!だあああっ!」

剣を横に弾き、一気に詰め寄ったガルは、地変を振りかぶってビュウの頭目掛けて振り下ろした。

「…ひょっとして、目が悪いのか?」

ガルの一撃は、ビュウのかぶっている兜に阻まれてしまった。

兜の下でビュウが鼻で笑い、思いっきり蹴飛ばした。
ガルは後ろに飛ばされるのを踏ん張って堪える。

「…視力はいい。
狙い通りだ。」

「何を…意味のないハッタリは…―――っ!」

ビュウの兜は真ん中からパッカリと割れて、床に落ち、バラバラに砕け散った。
鉄でできた兜は石の欠片へと変わっていた。

「…この短剣が手放せない理由だよ。
この地変は、どんなものでも、石に変える。」

兜の下から、サラリとした髪と、白く美しく悔しそうに歪んだ顔が現れた。
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