海宝堂〜海の皇女〜

「…その顔で悪役かよ…
似合わねぇな…」

ビュウはギッと怒りを込めた目で睨み付ける。

「…顔がなんだ？
顔がこんなだと、血を見るのも嫌がらなきゃいけないのか？弱くなきゃいけないのか？

ふざけるなっ！
俺は血を見るのが好きだった、昔からな！
持ってたんだ、天性の才能を。殺しの！


なのに、ちょっと体の大きな奴をボコボコにしたからって、怖い？
俺はただ、弱い奴を強い奴が食う、弱肉強食の世界に沿って生きてただけだっ！

俺に今の海は住みにくいんだよ。
だから、ヌルド様の理想は俺の理想でもあるんだよ。

弱い奴は、みんな死ねばいいんだっ！」

ビュウの息が荒くなる。
さっきよりも早い攻撃がガルを襲う。

ガルの体に無数の傷が出来ていく。

「凄いね、お前っ！
これだけの攻撃を紙一重で避け続けるなんてっ、ホント、逃げるのだけは上手だよっ！」

止まらない攻撃の中、ガルのシャツが切り裂かれ、床に布切れとなって落ちていく。

「…お前ら、ずっと正しい弱肉強食の世界とかなんとか言ってるがな。
はなっから、弱肉強食の捉え方が違うんだよっ！

弱肉強食はただ、一方的に強い者が弱い者を食うっていう意味じゃねえっ！

鮫がイワシの群れのあとたった一匹を食い損ねて餓死したのなら、それはイワシが鮫を食ったも同然だ。

弱肉強食とは、力の強さや牙の鋭さを誇示することじゃねえ、自分が生きていくために、命を賭けて相手の命を奪う。
だから、命は重くて、尊いんだ。

『生きたい』、そういう心の強さを表してるんだよっ！」

渾身の力を込めたガルの拳が、ビュウを壁までふっ飛ばした。