海宝堂〜海の皇女〜
壁に激しくぶつかり、ビュウは少しの間、呆然としていた。

腹から昇ってくる痛み…そっと手を伸ばすと、鎧が見事にへこんでいた。

「な…どうし…?」

正面に立つガルを見る。
ガルは自分の拳を真っ直ぐ差し出して見せた。

拳には、石でできている何かが、巻かれていた。

「…一体なにを…はっ!」

ビュウはガルの切り裂かれたシャツが床に落ちている量が少ないのに気付く。

「…そういうことか、シャツを拳に巻き付け、その短剣で石に変えた。」

「…ああ。」

「しかしっ!片方は兜のようにもう砕けてしまった!
残った片手で俺を倒す気か?
打撃で倒されるほどは弱くはないんでなっ!」

壁を蹴り、ビュウがガルに迫る。
繰り出される剣を地変で受け流す。

「確かに、その鎧にただの石じゃ力不足だ。ならっ…」

ガルは地変を鎧に近づける。

キィンっ!

ビュウがそれをすかさず阻止する。

「冗談。そんなことを易々と許すはずがないだろうっ。その短剣は対象にしばらくの間密着させていなくてはいけないみたいだからな。一瞬の接触なら怖くはないっ!」

「…よく、見てるな…」

「はぁっはっはっは!
何がイワシだ、心の強さだ!
結局、勝つのは戦う能力の高い奴なんだよっ!」

「確かに、お前の能力は高い…だがなっ!」

ドガッ!!

再び、ビュウの腹に拳がめり込む。
さっきと同じ右手で…

「なっ…!」

「地変は石の硬度も自由自在でな。
能力があると油断しがちだから、気をつけろよ。」

ビュウの顔が、苦虫を噛み潰したように、醜く歪む。
肩や手は震え、息は荒い。
せっかくのいい男が台無しだ。

「くそっ…くそぉぉっ!」

悪鬼のような形相で、剣を振りあげ、ガルに突進していく。
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