海宝堂〜海の皇女〜
「シーファぁっ!」
「う…嘘で…しょ?」

みんなが自分の目を信じられなかった。…信じたくなかった。
しかし、揺れる炎の中でパチパチと燃えている金髪から目が離せなかった。

「お姉…ちゃん…っ…リノスっ…」

「やだぁっ!シーファ姉ちゃんっ!リノスぅっ!」

泣きじゃくりながら炎に近づこうとするクルトの肩をガルは無言で掴んだ。

「離せよっ!助けないと…助けないとぉっ!」

しかし、ガルの腕はビクともしなかった。
その悔しげな表情に『絶望』という言葉が浮かぶ。

「はっ…なんだ…決着を着けるまでもなく、自滅かよ…つまらねぇ奴…」

「てめぇっ!よくも、んなこと…っ!」

男の嘲笑まじりの言葉にリュートが殴りかかろうとするが、その前に男は吹っ飛んだ。

「ガル…」

無言のまま、吹っ飛んだ男に近づくガルの目は冷たく光った。


「げほっ…けほ、けほっ…………危なかったぁ〜」


ガルの迫力に男が小さい悲鳴をあげた時、倒れた柱の後ろから声が聞こえた。

みんなが声のする方を見ると、女の子を抱いた長い黒髪の女が出てきた。

こちらへ歩いてくるその姿に唖然とした視線が集まる。

「よし、みんなのとこに行ってて、私は決着つけないと。」

女の子がみんなの所へ走って行くと、女はガルとしりもちを着いた男に向き直ると構えをとった。

「さあ、決着つけましょうか?」

「あんた…」

「ガル、大丈夫だから、ここは私に…」

「お前…まさか、シルフェリア王女か?」

呼ばれるはずのない名前を呼ばれ、黒髪の女…さっきまで金髪だったはずのシーファの顔は驚愕に歪んだ。
その表情を見た男は慌てて立ち上がって、シーファに背を向けた。

「見つけたっ…見つけたぞぉっ!――――がっ!」

嬉々として叫んだ男は顔から地面に倒れた。
側にいたガルさえも見えないスピードでシーファが背中に蹴りを入れたのだ。

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