海宝堂〜海の皇女〜
8.神殿の中
波は穏やか、風は追い風、マシュー号は滑るように海の上を進んでいく。
この天候なら、目的の神殿のある島まで早く着くことが出来るだろう。

シーファは甲板で目の前に広がる海を眺めた。
初めて海に出たときとは全くその美しさは違っていた。
自由を手に入れた解放感、これからの冒険への期待。でも、きっと…

くるりと後ろを向くと『仲間』がいる。

これが一番の理由だと思った。

「シーファ。
感傷に浸るのもそこまでだぞ。仕事、あるんだからな。」

リュートがいたずらっぽく笑って言った。

「何を偉そうに…あんたがいつもどれだけの事をしてるっていうのよ。」

ニーナが持っている海図で頭を小突く。ぽかんっ、と軽い音がした。
くすくす笑うシーファにニーナが近づく。

「これがここら辺の海図。見方、教えるわね。」

「へん!海図が読めるくらいでなんだよ!俺だってなぁ…」

「海を旅するのに、海図は必須だ。
お前も仕事しろ。
ほれ、木材持ってきてやったぞ。」

ガルが船底からいくつかの木材を運んで上がってきた。リュートはこれこれ!と木材を吟味しはじめた。
約束のベッドを作るらしい。

「ありがとう、リュート。楽しみにしてる。」

「そんなに期待しないほうがいいわよ?」

「だぁー!ニーナ、俺の作るものは完璧だ!」

肘をついて呆れた顔のニーナにリュートがプンプン怒った。

「部屋に運ぶときにまた呼べ、下で食料の整理をしてる。
…サイズ、気を付けろよ。」

ガルの言葉にリュートはますます頬を膨らませた。

「あ、整理と言えば…
後で私たちも部屋の整理をしましょうね。」

「うん。でも、私は荷物少ないから一人で大丈夫よ。」

「そういやさ〜シーファ、さっき着てたドレスってどうすんだ?」

「え?どうするって…もう着ないし、雑巾にでもすれば使い道があるんじゃない?」

早速、木材をノコギリで切り始めたリュートが聞くと、シーファはあっさりとそう言った。

「雑巾って、あんた…
せっかくのドレスなのに…いつかの為にとっておいたら?」

「…国には戻らないってば!」

そういう意味で言ったんじゃないと、ニーナは笑った。
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