海宝堂〜海の皇女〜
海面から一匹がシーファの前に飛び出した。
頭から水しぶきをかぶりながら、シーファは頭上を飛んでいくイルカを目で追った。

「………………」
「なんだぁ?」
「イ…ルカ?」

イルカは一匹だけではなかった。
最初の一匹が船を飛び越えたのを皮切りに、次々とイルカの群れが、やって来ては飛び越えていった。

呆然と立ち尽くすシーファはイルカ達がたてる水しぶきにずぶ濡れになっていた。

「なんだったわけ?」

「群れの大移動か?
ま、何事もなくて良かったな。」

「すっげー!すげーすげーすげぇぇぇぇっ!!」

濡れた髪をかきあげ、ガルはオールに手をかけた。
リュートはただひたすら興奮している。

群れの大移動?
シーファにはそうは思えなかった。
確かに聞いた…

(もう、ここにはいられない…)

(早く遠くへ逃げないと、アイツラがくる――)

あれは、幻聴?それとも…イルカ達の声?
それならば…

(私達の行く先には…)

シーファは言いようもない不安を感じた。


「シーファっ!甲板の水かき出してっ!」

後ろからニーナの声が響く。シーファはびくっとして返事をすると、作業に取りかかった。


―――――――――――――――

「おー!見えたぞ!あの島だぁ!」

見張り台に上がっていたリュートが声をあげる。
額にかいた玉のような汗を腕でぬぐってシーファは身を起こした。

青い海にぷっかりと浮かぶ島…神殿のある島に到着した。

「あれが…
―――ん…」

シーファはそっと自分の胸に手を添えた。
何かがむずむずとうずくような感じがした。

海に出た時から、胸の紋章はうっすらと現れていた。
紋章がうずく…それは初めてのことで、きっと初めての知らない島に緊張しているんだと、最後の水を海に返した。
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