まほろばから君を呼ぶ(上)
 放課後の美術室は、窓から差し込む夕日の光によって赤く染め上げられている。いつの間にか窓際に立っていた彼女の顔は、夕日の逆光によりシルエットが浮かび上がっている。光と影のギャップが激しいのか、彼女の顔は黒く塗りつぶされた深い洞のようで、表情が判然としない。
 周はあまりの眩しさに軽い頭痛を覚え、目を閉じた。視界の暗転。暗幕のようなまぶたの裏で、さっきまで見ていた景色が残像のようにこびり付いている。
 夕日を背負っていた彼女。クラスメートで幼馴染でもある彼女の姿が、一瞬で全く人物に変化した。うずくまって大声で泣く小さな少年。色素の薄い赤みをおびた髪の毛、左目を覆う眼帯が痛々しい。周にとって全く見覚えのない少年。だけど不思議と少年の泣き声は、周の胸を執拗に締め付けてきた。
「……?」
 わずかな疑問はあったが、周は恐る恐る目を開ける。目の前には先ほどの声の主、クラスメートでもあり幼馴染でもある巡紫月の勝気な顔があった。
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