機械仕掛けの心の行方
不思議であった。

様々な擬似感情が私の中に存在していた。

喜び以外の感情も湧いてくることもあった。



その中で、ただ一つ欠落していた、『寂しい』。



人間はいつだって寂しいという感情を抱えていた。

そのような彼らを理解するのであれば、『寂しい』を理解している必要があるのではないか、と、考えていた。

ずっと、疑問に思っていた。



違う。



私は製作者が何故私に『寂しさ』を与えなかったのか、その意図をようやく理解した。

私達は、死なない。

そして人間は、死ぬ。

私達は、常に「残される側」に回ってしまう。

この『寂しさ』を、半永久的に抱え込まなくてはならない。

だから、私達には与えられていなかった。

『我々』は、それを知ってはいけなかった。




しかし、私は多くのことを学習した。

これほど長い間、人間に仕える『我々』がいようとは、制作者も予想していなかったに違いない。

しかし私は、ずっとあの親子に仕え続け、学習を繰り返した。

幸福を、知った。

だから、分からないはずがないのだ。

理解できてしまったのだ。

与えられることのなかった、その感情を。

幸福であるならば、その逆もまたあることを知ってしまうのは、必然のことだった。
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