絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「そ、れは分かるんですが」
「……かけてこいって意味」
 私が?
「私が?」
「俺がかけんのかよ!」
 え? いや、なんで私が……いやあの私はお金持ちでもないし、そんな毎回仕事無くされても困るし、しかも、ああいうところの仲間入りはちょっと……そんな年でもないし。
「あの……私、お金持ちじゃないし、それに仕事もしてるし……」
 何をどう言えば、こんな携帯いらないと伝わるのか。
「だから?」
 だからって……だから……。
「あのそれに、そんな若くないし、だから、そんな遊べないかなーって……」
「やめればいいじゃん、仕事」
 ってまあ、あんたはそう思うでしょぅけど。
「でも私、仕事やめたら生活できないから……」
「あんた一人くらいどうにでもなるよ」
 え、何様目線?
「どうにでもなるって、私は私でちゃんと仕事してるんです。遊び相手だったら他の人探してください」
 キレたふりをして、携帯を返そうと思ったが、予想以上に相手が鋭い視線をこっちに向けたので、とりあえず携帯はシートの上に置いた。
「そんなんじゃねえよ!」
 突然の大声に、こっちがびっくりする。
 その時、車が停車していることに初めて気づいた。既にここは、夜明けの東京マンションである。信じられないことに、今日は月曜日で、これから出社の準備をしなければ……。
 最悪のタイミングでこれまた最悪のモチベーション。
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