絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 榊はブラックコーヒーを飲みながら、ふと思い出したのか、話始めた。
「誰に?」
「この前の縁談の彼」
「え、仲いいの?」
「いや、まあ、連絡先は知ってるが、飲みに誘われて。どうしても諦められない、どうしても結婚したいって」
「結婚って(笑)」
「一目ぼれで結婚なんだから、うまくいけばうまくいくよ」
「ええ? そんな結婚なんて、どれもうまくいけばうまくいくでしょ?」
「いや、相手は君がいるだけでいいって言ってるんだから。愛される結婚は、望ましい」
 納得いくようないかないような……。
「……あなただってそうだったんじゃないの?」
「さあ、どうだかな」
「そうじゃない。逆にあなたが女の人を追いかけるなんて想像できないわ」
「そうでもないさ」
「ふーん……」
 榊はもう一口コーヒーをゆっくりと飲んだ。
「私、もう誰とも結婚しないかもしれない」
「……どうして?」
 淡々と言ってしまうつもりだったのに、間を置いてしまったせいで、フォークに刺したチーズケーキがどうしても持ち上げられない。
「手術したの。子供ができないように」
 諦めて、フォークから手を離した。
「どうして?」
「……」
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