絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「へえ……。香月さんならたくさんいるんだろうな、ボーイフレンドが」
 午後7時。流行のレストランで最高の夜景を見降ろし、真っ白のテーブルクロスを敷いた丸テーブルを前に、少し上目使いでくるとは、さすが慣れている。
「え、いえ……そんなことないですよ。ただ職場に女性が少ないので、仕事関係の方は男の人が多いですけど」
「職場に男が多いとか、少ないとか関係ないと思うな、君自身が魅力的だからじゃない?」
 今日のディナーは完全にハズレな気がした。
「え……あ、はあ……」
「君が新店舗に望んでいること、何かある?」
「えっ?」
 突然の話題変更に、つい目を見てしまう。
「君が何か一つ望みを言ってくれるのなら、それをかなえてあげる。例えば、こんな形の窓がいいとか、何かない?」
 え……? いやあの、仕事をそういうことに使うの、やめてもらえません?
「え……いやあ……私は、別に……。だって、その、例えばハート型にしたいって思っても、それはあの、その、あの、牧さんのイメージに合うかどうかとか、その、いろいろありますよね?」
「僕が君に合わせるってことだよ」
 なんだかなあ……そのウインク……。
「え……いや……突然いわれても……」
「思いつかない? じゃぁまた今度、聞かせてね」
 って今度……があるの……?
「ところで、今、彼氏いる? ああ、こういうの、セクハラになるかな?」
 完全に、笑顔で合意を求めている。
「え、いやあ……」
 牧の笑顔に比例するように、食事は次々運ばれてくる。彼のグルメなウンチクに香月は仕事だと唱えながらしっかり応対し、デザートまでなんとか食べたが。もちろんデザートはチョコレートケーキではなく、今日は夏みかんの小さなムースだった。
 そして最後は極め付けの一言。
「じゃあ、ちゃんと聞いてい? 俺と次も会ってくれるのかどうか」
「え、それって、プライベートでって……」
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