絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「あ、はい。だからホテルには……」
 これで理解してもらえると思ったが、甘かった。
「そんな人なんてすぐに忘れるよ。僕らの関係はこれからだよ」
 彼は1人さっと立ちあがる。
 待ってよ、それにはさすがに付き合えないでしょ!
「すみません、本当にダメです」
 香月は座ったままで、丁寧に断りを続けた。
「職場関係の人だから嫌なの?」
「え……まあ、それもありますし……」
「ならこの仕事、蹴ってもいいよ」
「ええー!?」
もっと真面目に仕事しようよ……。
「困るんじゃない? 今更」
「ってでもそんな……。私も困りますし……」
「君はそんな困ってないでしょ? 大丈夫だよ」
 何が大丈夫だ……。
「いえ、あの、無理です。……仕事のことはあの、分かりませんけど、私は絶対行きませんから!」
 立ち上がって思い切って言った。そう、私が悪いんじゃない!!
 しばし目が合う。
「……あそう」
 彼は先に椅子を引いて、テーブルから離れて行く。
「……」
 えー、まさか支払い、私じゃないでしょぅね!!
 とまあ、支払いは済ませてから帰ってくれたのだが、全く世の中間違っている。
 しかし、それでもやっぱりエレクトロニクスが楽しいと思えるのは、そのメンバーの人柄だろう。
 宮下部長をはじめ、佐藤課長、今井主任、と今までのメンバーに加えて、朝比奈副主任というエリートなど、社を回す中心人物がその辺中にいる。しかも皆気さく。社外メンバーでは、特に牧建築デザイナーがが突出して見えるのは仕方ないが、まあ、そもそもエレクトロニクスの社員じゃないし、仕方ない。
「牧先生にはえらく気に入られてるな」
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