絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 そしてそう、やっぱり小声で話しかけるのは、佐藤課長。一緒に仕事をするのは久しぶりなのだが、その意味不明のなまめかしさは相変わらずである。
 佐藤は偶然デスクが隣ということもあって、ちょこちょこ話しかけられることが多く、今も牧から香月宛のファックスを手渡しながら言葉をかけてきた。牧からこちらへの要件は、ファックスから電話、メールにいたり、この2週間は全て香月経由になっている。
「……嫌われてるんですよ。私……仕事ができないから」
 まあ、差異はない。
「外部にしちゃ、嫌われすぎてない?」
 佐藤は顔を覗き込むようにして、真剣に聞いてきたので、
「知りません……」
 と、顔をそむけたが、それでは愛想がなさすぎかと心配になり、
「あーあ……やっぱ店舗に戻りたかったなあ」
 と、付け加えた。 
「贅沢な。ここに来たいって奴らはいくらでもいるんだぞ。店舗のきわみが本社だ」
「私はそんなこと、考えたこともありません」
「……。仕事、このまま続けるんだろ?」
 そんな思い話をするつもりもなかったのに、佐藤は深く追究してくる。
「……このままって、別に……。やめるつもりは今のところありませんけど」
「一時休んでたから。産休でもとったかと思った」
「まさか!!」
 あまりの驚きに顔を見た。だが、相手はこちらを見てはいなかった。
「もしくは、ハネムーン」
「違いますよ、そんなの……、ちなみに失恋休暇でもありません」
「うちの会社、ないだろ?」
「ないですけど」
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