絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 行きたかったわけではないのに、そのくせ割と楽しかったシュノーケルは、結局、会社を病欠として休んだ罪悪感から、あまり思い出したくはなかった。
 四対の権力はどうやら本物だったようで、出社するなり、「風邪大丈夫?」と数人に聞かれた。
 結局最上がどうやって帰宅したのかも分からず、それからは残業まみれの一週間だったせいで、連絡も取りそびれていた。
 3月に入って最初の火曜日、ようやく落ち着いた休日になり、今日辺り一度会って話を聞いてやった方がいいのではと考えながら、携帯をいじっている時になってようやく思い出した。
 そうだ、四対にもらった携帯そのままだ。
 開いてみると、もちろん充電が切れており、返すにしても、電源くらい入れておこうと、およそ一週間ぶりに充電器を差す。
「……」
 ほんとにかけてきたんだ……。
 着信がなんと、10件以上もある。もちろん同じ番号から。
 四対以外の何者でもない。
 かけなおすべきなのか……。まあ、人として、そうだろう。
 香月は、最上のことは一旦置いて、四対の携帯にかけることにした。
 そういえば、四対は大学生なのだろうか、それとも、社会人なのか、それも聞いてない。
 5回鳴らして相手は出なかったので、まあ、いいやと画面を閉めた途端、着信音は鳴った。
 何も考えずに、出る。
「はい」
『つーか、何で充電してねーんだよ!!』
 いきなりの罵声。
「え……と」
 なんでってなんでだろ。忘れてた?
『……ちゃんと充電しとけよ…。で、明日10時に迎えに行くから』
「えっ? 10時?」
『ああ。高一郎(こういちろう)んち行こうぜ』
「えっと、千さんのことだよね? どこ?」
『伊豆』
「いずぅー!?」
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