絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「噂だよ。そうじゃなくて、色々トラブルがあったからね。それで関わることは多かった。店長だったし」
「そうなんですか……。トラブルって? クレームですか?」
「うん、お客さんに気に入られすぎるというか、しつこくされて困ったり」
「ああ……なるほど」
「だからまあ、本社の方がそういう意味で向いてるのかもしれないとは思っていたけど、本人は仕事ができないって思ってるんだ」
「今は、牧先生や佐藤課長の雑用くらいしかすることないって」
「……そんなことないんだけどな」
「そう、余力があるってことだと、僕も思いましたけどね」
「気をつけてみてみるよ、そっちは。会議の方はどうかな……。村瀬部長はあんまり気にしないからね、本人の意思とか、そういうの」
「そう、僕、あの人部長には向いてないんじゃないかと思うんですけどね」
「こら(笑)、まあでも頭がいい人だから。だから香月に関しても、気をつけながらやってるとは思うよ」
 村瀬部長が香月に気をつける?
 村瀬と香月は実家が近所でローカルネタで話に花が咲くことも多々あるらしい。そのせいで、村瀬はいつも香月本人には「愛ちゃん」と言う。社内くらいはせめて、香月さんで統一すればいいのに……。
 いや、今はそんなことにムッとしている場合ではない。
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