絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

死んで俺の物になれ


 目の前には100インチの液晶テレビがある。
 ソファは本物の皮、テーブルは大理石、カーペットはペルシャ製だろう。更に窓からは、真っ暗な夜の闇に浮かぶ東京の選ばれし者しか見ることのできない夜景が見下ろせる。
 使いもしない冷蔵庫は700リットル、中にはミネラルウォーターとお酒数本くらいしか入ってない。もちろん、調味料もない。香月が住んでいた頃にあったものは、全て賞味期限が切れたので捨ててしまった。
 香月はバックもまだ置かず、来慣れた新東京マンションの一室をぐるりと見渡して、溜め息をついた。きっとあのキラキラの掛け時計だってすごく高いんだ。
「ねえ、あの時計、いくらぐらいするの?」
 巽はネクタイを緩めながら冷蔵庫からミネラルウォーターを持ち出し、こちらに寄りながら、
「あれは……さあ。狭い土地くらいなら買えるかな」
「全然わかんないよ。いくらなの? 狭い土地って百万? 百万でどのくらい買えるのかな?」
「その十倍」
「いっせんまん!?」
「は、するだろう」
「……へー……すごいね。……、もし、ここにある物全部売ったらどれくらいするんだろう……」
「引越ししたいのか?」
「え、いやあ……」
「中央区に新しいマンションができる予定だ。あそこも悪くないな」
「え……いや、そんなつもり、全然ないから。だってここまだ新しいじゃん……もったいないよ……。……けど、そういう感覚、ないか」
 皮肉のつもりで少し笑う。
「年収の一割を住居費に当てる。まあ、妥当だろう」
「……そうだね……」
 香月は四千円のバックをぽいっとソファに投げ捨てて、窓の方に寄った。
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