絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「モデルルームみたい」
 いつか、佐伯が言った言葉を思い出す。そう、あれから何年も時が過ぎた。
「どうした?」
 不機嫌なんだ。それが巽にはもう気づかれている。
「ねえ、仕事ってどうやるんだろう。分かんない。最近全然、うまくできない。言われたことだけやると、すぐに終わっちゃう。だから他のことをしようとしても、何をしていいのか分からない」
「上司に聞けばいい。何をすればいいのか」
「今はいいって言われる」
「ならそういう時は掃除でもすればいい。何もしないよりは遥かにマシだ」
「……私は、そんな風に仕事がしたいんじゃない」
 声に力が篭ったのに巽も気づいたのか、
「掃除が嫌なのか?」
 と、一旦宥めようとしてくれる。
「違うよ!! 違う、私、気づいてるの……。私……仕事ができない。全然、そんな風にできない。
営業部にいた頃は、確かにその、上司に買われたのかもしれない。だけど、今……数ヶ月休んだのにまた本社に行って、今度はこんな大事なプロジェクトに参加させてもらえる……そんなの普通、有り得ないよ」
ボトルが開く音がした。少し間が空き、水を飲んでいる姿が窓に反射している。
「……まあ、そうだろう。だが、お前を参加させたい人物がいた。そいつに買われたんだろう」
 巽はすぐ側まで寄ってきている。もう近すぎて、窓には実物大の身体が反射した。
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