絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
『……大丈夫か?』
「何が? ちゃんと仕事してるよ」
 片手の紙コップにしっかり入っているオレンジジュースを見ながら言う。
『……それならいい』
「じゃね、もう仕事、戻るから」
『ああ』
 自分と巽の関係はこのままどうなっていくのだろう。
 昨日は、巽に全身を愛され、「好き」と何度も言わされた。
クラブ生活から解放されてから、身体が拒んだせいで一度も抱かれていなかったが、昨日は荒療治とも言いたげに、多少強引に身体を開かされた。
 だけどちゃんと口では「いや」、だと言った。
「やだっ……」
「嘘つけ……言いたいことはそれじゃないだろ?」
「いやだっ……」
「俺のことをどう思っている? 正直に言わないと……」
 その後は、耳の中に言葉がゆっくりと入ってきたせいで、全てが飛んでしまいそうになった。
 実際は、かなり久しぶりの感触に、すっかり体を奪われてしまっていたのだが、否定の言葉でも言わなければ、口にしていなければ、頭が真っ白になりそうだったのだ。
 思い出して、身震いする。
 巽と結婚する……。そして仕事を続ける……いや、それは無理だ。だとしたら、仕事をやめて、例えば今日なら、一緒に北海道についていく……?いや、それも違う。
 香月はぐいとオレンジジュースを飲み干してから、立ち上がった。
 そう、もう一度、「愛している」と口にはっきり出して無垢になれたら。
 そう、巽としっかり向き合うのはそれからでもいい。
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