絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 野瀬ショウではない、アキラが新企画課に来る。本人がそう言っていた、それは間違いない。あの時ネームプレートを見間違えたはずはないし、まさか、あの人が何らかの事情で嘘をついた……としても、メリットは何もない。
 だが、野瀬の予告通り翌週から配属になったのは、野瀬ではなかった。
「今週から新たに配属になった、佐々木です。2年ぶりのエレクトロニクスで、多分すっかり変わっていると思うので、色々とご指導よろしくお願いします」
 おそらく、何かしらの力が働いたのだろう。
 にしても、佐々木は多分宮下くらい年がいっている。30半ば……いや、40近いかもしれない。
 佐々木孝一郎と名.乗った背の高い、利口そうできびきびと、更にはきはきと自己紹介した男は、課長代理という、ご指導よろしくの割りに偉い立場についた男であった。
 自分で紹介したのは、苗字と2年ぶりというたったのそれだけの情報だったせいかどうなのか、香月のデータには全くヒットしない人物である。
 第一印象は、厳しそう……。
 ワイシャツはボタンがピッタリ、ネクタイもカッチリ、黒髪も白髪が少しあるもののもちろん整え、色白で、その早口と視線の鋭さが、いかにも、できる男の証でもあるようだった。
 新企画課には、香月、今井の他に、女子が4名ほどいるのだが、結局どの人とも今井ほど仲良くはなれず、佐々木のことも今井だけに聞く限りでは、
「あの人はね、私の5つ上なんだけど本社人間だよ。店舗は行ったことない。主に営業にいたかな。最初の方は知らないけど。最後は部長やってたの。で、アメリカでMBN取るって言って留学して、なんだけど、帰って来たところが、何故か新企画課。でもね、ここでは経営戦略担当ってことだと思う。それに今は営業部は田中部長がうまくやってるしね。
 厳しい……とはちょっと違うかもしれない。宮下部長と比べると、厳しい、というか、……なんだろう。そんなむやみに怒ったりしないし、あ、早口がなんか、冷たく感じるかなあ。けどあれは癖だから気にしなくていいよ。
 結婚? さあ、よく知らないけど、してるんじゃないかなあ。指輪してないけど、そういうのはしそうにない。うん、仕事人間って感じなのかな。
 何? タイプ? 」
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