絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

 その翌日、巽に会って、全部話して、泣いてすがって、甘えたかったのに、結局一度も電話がつながらないまま、ぼんやり仕事をしていた。
 ミスが怖くて、当たり障りないことしか手をつけられず、すぐに暇になり、給湯室で意味もなく、やかんで水を沸かしてみたりする。
 お茶汲み……、本当に私は、こういうことをするためにここに呼ばれたのだろうか……。
 新企画課……新しい店舗を組み立てる課で、一体どんな仕事ができると期待されて、ここへ来たのだろうか……。
 しかも、副社長の命令で……。
 ……だとしたら、副社長はやっぱり四対のことで……花形部課へ栄転させ、いつでも使えるように確保している、ということなのだろうか……。
「あ、お湯沸いてる?」
 思いもかけず部屋に入ってきたのは、佐々木課長代理であった。
「え、あ、もうすぐ……です」
 水が多かったので、もうすぐではないかもしれないが、それ以上の言葉は面倒だったので避けた。
「……昨日の、先方とはうまくいったから」
「………」
うなずくような、ただ顔を動かしただけのような、微妙な動きだけどうにかできた。まさか、そのことを佐々木に知られているかもしれないとは思っていたが、話題にされるとは思いもしなかった。
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