絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「コップは?」
「……え?」
「湯のみ。お茶、注ぎに来たんだろ?」
「……いえ……。することがなかったので、お湯でも沸かそうと思って、ここへ来ただけです」
「そっか。ありがとう、助かった。香月が沸かしてくれてなかったら、諦めてたよ。やかんで沸かすのは面倒だし、ポットに水入れて、一旦戻るつもりだった」
「……そう、ですか……」
 維持を張るつもりで、仕事がないだなんて言ったのに、逆にそれを褒められて、突然、体の力が抜けた。
「えっ、おい、どうした?」
 悩んでいたこととか、詰まっていたことで、難しい顔をしていたのにきっと、疲れたのだろう。大粒の涙がわっと溢れて、それを止められなかった。
「え、おい、香月……。え、俺なんか言ったか? そんなひどいことを言ったつもりはないんだが、えーと、今何言ったかな……。いやその、ほんとに今ポットを見に来たら、新しいのが沸いてて……え、と、どういえばいいのかな……」
 かわいそうなほど困惑している佐々木に、香月はなんとか体を落ち着かせる。
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