絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「なんですけどね……。なかなか、本社が合わない、というのもあるんです。実は最初に本社へ来たときも、本人の確認は取ってないんです。城嶋さんは取るつもりだったみたいですけど、僕が、とっても彼女は拒否するだろうって」
「……嫌いなんですか?」
「そう、店舗の方が好きなんですよ。だからなんというか、僕の勘ですけど、副社長のそういう圧力で、余計に嫌になったんじゃないですかね……」
「そうなんですか……」
「……」
 宮下は一旦コーヒーを飲んで、続けた。
「おそらく、副社長が移動させた理由を知っていながらも、副社長に直訴できないから不満が募っている……かなあ」
「……幹部がらみのことですか?」
「いやあ、全く……。分からないことだらけで。
 そういえば……。ここだけの話し、幹部だけの食事会に香月が参加している、という話は朝比奈から聞きました。村瀬部長が、香月に話しているのを偶然聞いたそうです」
「幹部だけの? ……この新企画に関係する会ですか?」
「おそらく。香月はそれへの参加を嫌がってたように見えたそうです。朝比奈によると。だから、朝比奈も、その幹部と香月の関係にしっくりきてないんですよ」
「はあ……」
 とりあえず食べた。それ以外に、体が動かない。
「副社長が移動させるくらいだから、相当の理由があるはずだとは思うんですが……。何せ本人は店舗に戻りたいと言うし……」
「あ、副社長の息子との関係とかはどうですか?」
「ああ、それも考えました。実は彼女、東京ルームシェアマンションに住んでいて、副社長の息子と同居しているんですよ。それで、家電試験も勉強して取ったんです。けど、それだとしても……、村瀬部長が出欠を取るのはおかしい」
「ああ、なるほど……」
「僕も一通り考えはしたんですけど、結局手付かずです」
「そうですね……堂々巡り……というか」
「謎は深まるばかりです」
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