絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
およそ20分で着いた店は数年ぶりだが、どこも変わっておらず、相変わらず店の前に黒塗りの車が横付けされていた。
こんなに黒いフィルムを張ってまで食事に来て、得られる物って一体何だろう。そうなら、テレビ電話くらいにすればいいのに。
ふん、とタクシーのドアを閉める。と、次の瞬間にその黒塗りの後部座席のドアが開き、
「よ」
と、出て来たのは四対であった。今日はばっちりスーツを着込んでいて、ああ、本当に今日に限って私ってばなんでこんな安物のスーツなんだ……。
「ごっ、ごめんね!」
「だから謝んなって。俺今日腹減ってんだよなあ」
こんな高級料亭でも四対の態度はファストフードと変わらない。同じくらい行き慣れている証拠だろう。
「そうなんだ……というか、忙しくて昼食べられなかったの?」
「ま、朝から働くの嫌いだしな」
ここだけ聞いていると、本当に、国を動かす四対とは全く思えないのである。
案内された座敷はリュウの時の部屋に比べれば半分以下で、割と手狭な部屋に少し驚いた。
「狭い方が落ち着くだろ」
あ、そゆこと。
「うん、なんせ庶民だからね」
には違いない。
料理は既にテーブル一杯に広げられていたが、まだこれから追加がどんどん来るのだろう。
「今日はどうだった? 仕事」
四対は既に箸を割り、刺身に手をつけ始めている。
「今日ね、……あんまり暇だったから、やかんでお湯沸かしたの」
四対は驚いてこちらを見るかと思いきや、その視線は食事から動かない。
「……別に……、お茶飲みたいわけじゃないけど……。ポットに水入れればしばらくすれば沸くんだけどさ……。まあ、やかんで沸かしたのをポットに入れてもいいかと思って。もしかしたら誰もポットのお湯なんて使ってないのかもしれないけど。
けど沸かしてたら、副課長が来てさ……今お湯がほしかったんだ、ありがとうって言われて……なんか、ホッとしちゃった。私、何一人でいじけてたんだろうって」
四対は仲居が持って来たお椀の蓋をすぐに開けた。そんなにおなかすいてたんだろうか、というか、そんなに時間ないんだろうか。
こんなに黒いフィルムを張ってまで食事に来て、得られる物って一体何だろう。そうなら、テレビ電話くらいにすればいいのに。
ふん、とタクシーのドアを閉める。と、次の瞬間にその黒塗りの後部座席のドアが開き、
「よ」
と、出て来たのは四対であった。今日はばっちりスーツを着込んでいて、ああ、本当に今日に限って私ってばなんでこんな安物のスーツなんだ……。
「ごっ、ごめんね!」
「だから謝んなって。俺今日腹減ってんだよなあ」
こんな高級料亭でも四対の態度はファストフードと変わらない。同じくらい行き慣れている証拠だろう。
「そうなんだ……というか、忙しくて昼食べられなかったの?」
「ま、朝から働くの嫌いだしな」
ここだけ聞いていると、本当に、国を動かす四対とは全く思えないのである。
案内された座敷はリュウの時の部屋に比べれば半分以下で、割と手狭な部屋に少し驚いた。
「狭い方が落ち着くだろ」
あ、そゆこと。
「うん、なんせ庶民だからね」
には違いない。
料理は既にテーブル一杯に広げられていたが、まだこれから追加がどんどん来るのだろう。
「今日はどうだった? 仕事」
四対は既に箸を割り、刺身に手をつけ始めている。
「今日ね、……あんまり暇だったから、やかんでお湯沸かしたの」
四対は驚いてこちらを見るかと思いきや、その視線は食事から動かない。
「……別に……、お茶飲みたいわけじゃないけど……。ポットに水入れればしばらくすれば沸くんだけどさ……。まあ、やかんで沸かしたのをポットに入れてもいいかと思って。もしかしたら誰もポットのお湯なんて使ってないのかもしれないけど。
けど沸かしてたら、副課長が来てさ……今お湯がほしかったんだ、ありがとうって言われて……なんか、ホッとしちゃった。私、何一人でいじけてたんだろうって」
四対は仲居が持って来たお椀の蓋をすぐに開けた。そんなにおなかすいてたんだろうか、というか、そんなに時間ないんだろうか。