絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「宮下部長はそうでもないけどね、やっぱ部長だけあるのかこの前も結構怒ってたよ。図面渡すの間違えて、事故になりかけた話で」
「え……事故?」
「そう、俺も後からちらっと聞いただけだけど、香月さんが取引先に図面渡し間違えて、落ちかけた人がいるとか」
「……えー……」
「佐々木さんは宥めてたけどね。……言い方悪いかもしれないけど、今度は佐々木さん狙ってるのかもしれない。今考えれば」
「……」
「いやでも、僕も今思い出したことを色々言っただけだけど、けど、実際本人と話してみると全然そういう……下心とかそういう感じはしないんだけどな」
「うん……」
「一回誘ってみる? 食事に」
「えっ!?」
 予期せぬ提案に、のけ反るほど驚いた。
「それとも、今の話で結構嫌いになった?」
「いや、それは全然……。
 今まで、ほんと、好きだったけど、そういう噂話全然聞いたことなかったから、びっくりして……。まあ、彼氏はいるかもしれないとは思ってたけど」
「あ、そうだ。この前ビルの一階で発砲事件あったじゃん? あれ、狙われたの香月さんかもって。それは、完全な噂だけど」
「え、それも!? す、ストーカーとか!?」
「さあ、これは全然誰も喋らないから分からないけど……だから、犯人は案外社員だったのかなあ、って思ったり」
「ああ、なるほど……」
 明日はわが身でないことを祈る。
「明日、食事に誘ってみようか。いい? まあ、相手の都合によるけど涼屋はダメな日とかある?」
「ない」
 涼屋は即答した。
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