絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「なんだ、早く言ってくれればよかったのに。……店どこにしようかな」
 永井は一息もつかず、携帯をいじり始める。
「諒屋は密かに彼女いるのかと思ってたよ。言わないだけで」
「いや……。もうずっとできてないよ。全然香月さんのことが忘れられないから」
「……へー……まあ、人気あるよなあ」
 永井の言葉が、ぐんと胸を突く。
「寺山っているだろ? あいつはかなり押したけどフラれたって」
 他人の不幸をさらりと言ってみせる永井の指は携帯から離れない。
「へー!! あの寺山が……」
 そういえば、永井と寺山は同期くらいかもしれない。
「西野さんはすごく仲がいいけど、仲がいいだけみたいだし」
 それだけは知っていると、自分もありったけの情報を出した。
「ああ、結婚してるしな」
「離婚したよ」
「あ、そうなの? 知らなかった」
 永井は携帯から少し視線を上げたが、すぐに戻す。
 涼屋は溜め息をついた。
「……食事、か……」
「なんなら食事の後、消えてもいいけど?」
 永井はにやにやとたくらんでみせた。
「……まあ、それはその時の状況で……」
 涼屋はその表情にはうまく応えられなかったが、言うだけのことは、しっかり言った。

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