絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

それぞれの暴走

 葵ちゃんは、お弁当を作ってあげていたあの医師と、代議士である父親の秘書と二股をかけていた……。それだけでも十分驚きだ。妻子ある秘書は父親の汚職の罪を擦られそうになったところを逃げるために、銃を使い、駆け落ちしようとした。元々借金にまみれていた秘書は金を出すために中央ビルに現れたが、相手と口論になり発砲した。それが偶然香月に飛んできた、という筋書きにしたのは巽だ。
 溜め息が出た。既に斉藤は紺野を刺した時点で捕まり、事件は解決しているが、何故こんなことに巻き込まれなければならなかったのか、こちらが聞きたいくらいだ。
 紺野の疑いもまだ解決してはいない。巽に麻薬取締の容疑がかかっていると脅してきたが、脅しではないのかもしれない。現に銃は所持しているし、金回りの良さは尋常ではない。
 もう一度溜め息をつく。
 さっき、社内で涼屋とエレベーターで会い、食事を断ったことに、滅入っているのではない。
 それよりも危険なのは、永井の方だ。噂話や幹部の情報などを永井はよく周知させている。
 もし、警察が本腰で巽を追いはじめて、それでエレクトロニクスにも迷惑をかけることになると……、このままここには残れないかもれしない。
 ……、巽と付き合うって、こういうこと?
 紺野にたっぷりと正義感をかけられた言葉を思い出す。
 はああ……。今日何度目かの溜め息。参ったな……、このままだと何もかも、うまくいかなくなる。

< 224 / 423 >

この作品をシェア

pagetop