絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 何故、一日一度連絡をするように心がけていなかったのか。何故、巽からも連絡を入れてくれるように、お願いしていなかったのか。せめて……メールだけでも。
 まさかのまさか。午後11時半に携帯に電話をかけようとしたが、なんと、番号を変更されていた。
 有り得ない、事実。
 何度かけても、「番号をお確かめになって、おかけ直し下さい」と音声ガイダンスが繰り返されるばかり。
 あれ……本気で怒ってた?
だが、香月は驚くほど落ち着いていた。冷静に考えることができる。
 確かに、ディナーの途中であんなことになったことは初めてであり、それが巽の勘にかなり触ったと言われれば仕方ないといえば仕方ない。
 香月との連絡用の携帯が、仕事用とは分けられていたので、突然変更しても特に支障はないだろうが、相手から突然電話番号を変えるなんて……そんな人だっただろうか?
 いや、理由はちゃんとあるから突然ではない。あの夜、しっかりけんか別れしたではないか。
 けど、あれくらいの程度のことで?
 いや、あれが巽にとっては最高のきっかけだったのではないか。
 けど、だからって突然携帯を変える?
 まさか、今変更したばかりでまだ契約中とか……いや、時刻は午後11時半。携帯の契約は午後8時までだから、とっくに開通しているはず。
 不安ばかりが頭を過ぎる。
 どうしよう……家に行くべきか……。
 でもなんて?
 電話、つながらないんだけど?
 だけど何……。
 マンションに入ろうとしても……暗証番号を変えられているかもしれない。かもしれないのに、前の番号で入ろうとしているなんて、ストーカーも甚だしいのではないか……。
 家の前で待ち伏せ?
 会社の前……アクシアの店の前?
 どれもダメな気がした。
 何よりもダメなのは、拒否されているのに、その隙間から入ろうとしているその心……。
 もう一度かけた。
 やっぱり繋がらない。
 巽が自分の前から消える。
 しかも、突然。
 これってけんか別れ??
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