絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

それぞれの本性

 降りしきる雨の中、1人で傘を差してまで歩きたくはない。
 そう感じるのは、傘を差すこともできずに歩いたことがあるせいだろう。
 午後10時に自宅前を一人で歩くのは怖すぎる。特に、雨の日などなおさらだ。
 だから、2人で歩く。
「こーゆー時、裸足で1人歩いてみたいよなあ」
「歩けばいいじゃないですか」
「まあゆーてもなあ、ええおっさんが一人でスキップするわけにもいかんでしょ」
「誰も見てませんよ、きっと」
 ユーリと何故こんな風に道をのんびり歩いているかというと、今日が木曜で仕事が休みだから。
 辺りは街灯があるのでそれほど暗くはない。だが、やはり用心はしておくべきだ。つまり、自らの思いつきを、ユーリを参加させる、という一番安全な方法で実現させた香月は、それはもうほろ酔い気分で、今まさに気分はなかなか最高潮なのである。
「ユーリさんがいれば、世界は完璧ですね。猫に小判、豚に真珠、犬に餌、ユーリさんに、足」
「足? せめてなんか他にないの? 例えば……ユーリさんに、完璧な世界!! 俺の前で、世界はひれ伏すんよ!!」
「それきっと、シュミレーションゲームの中の、何かなんじゃないですかねえ」
「って、アンタが先にそー言うたんやないのー!!」
「えっ!! 今、あれっ、きゃあ!!!」
 香月は突然悲鳴を上げると同時に、ユーリの傘とぶつかり合うように寄った。
「え、何?」
 ユーリはそれに気づいてない。だが、香月は、ユーリの服をぐっと握った。
「ひ、人じゃないですか!? アレ!!」
「え……うそぉ……」
 すぐそこ、電信柱の下で、人が足を折って座り込んでいる。かなり近寄れば来れば分かる、明らかに、人だ。よく見れば、スカートを履いている。しかし、綺麗なスカートにスニーカーだ。
「し、死んでるの!?!? ど、どうしよう、き、救急車? ……ねえ!!」
< 276 / 423 >

この作品をシェア

pagetop