絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「……はい、あそう……ふーん。じゃいいわ」
 誰が相手なのか、まるで友達にかけているような話しぶり。電話はすぐに切れた。
「今出てるんだって。秘書しかいなかった」
「番号はダメだったんですね」
「まあそりゃ当然そうだよ。秘書の判断じゃね」
「ですよね……」
 重い溜め息。
「けど2時間したら帰ってくるって。だからもう1回かけてみてもいいけど」
「えっ、ほんとですか!!」
 ということは、午後11時くらいか。
「んー、でも2時間もどうしようかな……」
「えっと、うーんと、じゃあ……えーっと」
 飲みにでも行きますか? と言いかけてやめた。もし、泥酔されたら電話どころではない。
「隣のホテル、部屋とってるからそこで休むよ。今日はそこに泊まる予定だったから」
「あそうですか。じゃあ私はその辺でぶらぶらしてます」
 というか、デザートが先にという話になって、食事がまだできてないし。先にということは、後からコースが出るんだろう。
「まあ、そんなこと言わずに。もし、電話が繋がったときのためにどんな会話すればいいかとか、考えておいた方がよくない?」
「それは……そうですけど」
「大丈夫。同じ部屋にいても何もしないよ」
 嘘つけ……。
「いいです。私、じゃあそのホテルのロビーで待ってます」
「信用されてないなー、俺」
 そりゃあそうだろう!!
「じゃあもし、部屋に入らないんなら番号聞いてあげないって言ったら?」
「そんなっ!! 聞いてくれるって言ったから今も食事したんじゃないですか!!」
「まだデザート出しただけじゃない。けどもう番号は一応聞いたよ。けど相手が不在だったから仕方ないじゃない」
「……まあ、そうですけど……」
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