絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 この流れ、最初から読まれてたかも……。いや、そんなことないか、伊吹はそういう下心とは無縁に見える。
 そういう雰囲気なのだ。なんというか、堅い……硬い、難い人、そんなイメージがとにかく強い。そう、年齢は明らかに上だ。今井にどう説明するのか面倒だったので、今回は今井の情報がないのが辛いが、見た目は30……2、3、か……。なのに、敬語を崩さない。まさか、私のことを年上だと勘違いしている可能性もなきにしもあらずだが……。
 2人は、とりあえず車を置いておくことにして、タクシーに乗り込んだ。
「女性にお金を出してもらうわけにはいきませんので、今日は僕の行き着けの店でお願いします」
「えっ!? じ、じゃぁ、意味ないんじゃあ……」
「言ったでしょぅ? 今日は僕一人で食事をしなければならないんです。それを手助けしてくれるだけで、大助かりなんですよ。一人で食事をしても、つまらないだけですから」
「……、独身……ですか?」
「ええ、実家暮らしなんです。家を出ようと何度も試みたのですが、なかなか面倒で……お恥ずかしい限りです」
「いえっ……、今日はじゃぁ、家に誰もいないんですか?」
「ええ……。香月さんは?」
 何を聞かれているのか分からなかったが、隠すことも特にない。
「独身です。同居してる人はいますけど、けど私は一人でご飯食べるのなれてますから……」
 毛並みが違うなあ、というのが第一印象である。老舗和菓子屋の次男坊、さすがに、丁寧に育て上げられたのだろう。
「着きました」
 もしかして、船場でも連れて行くつもりだろうかと思っていたが、これまた意外な綺麗な小料理屋であった。なるほど、お坊ちゃんはこういうところでセンスを磨くのか……。
 彼はにこやかに、酒と料理をたしなみ、また、全く嫌気がささないように教育を受けているのだろうか、その、雰囲気が不思議なほどに嫌味を感じさせない。
「あの……伊吹さん、私より、年上ですよね?」
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