絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「今年33です」
「ああ……」
 それくらいだろうなあと思っていました。
「べ、別に敬語じゃなくてもいいですよ?」
「いえまあ、会社の人ですから」
 はあ……なるほど。かちっとしてるなあ。
「もし、僕とあなたが、それ以上の関係になったら、喋り方を変えましょう」
「……」
 え。
 いや、笑ってるか……。
「ああ……」
 なんというか、大人……とはちょっと違うなあ……、巽の大人、ともまた違う。
 その日は、かなりセーブして飲んだ。つまり、食前酒だけ。その後終電で帰り、なんということもない、上品な会社の人との付き合い方……を学んだ。そう、楽しんだというよりは、学んだ、の方が近い。帰って、ようやく伊吹和菓子店のことを調べる。ウィキペディァには、長男が駅前に支店となる新店をオープンし、本店は父親が認めた跡取りが実質二代目として継いでいるというなかなか、今時な世代交代である。
 ……、とにかく、真っ直ぐな目が印象的だったな……。
とまあ、心に残ったのは、そのくらいのことだったのである。
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