絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「じゃあこうしよう。部屋に入って、キスだけする」
「嫌です」
 即答した。
「正直者は救われるんだよ」
「どういう意味ですか、それ……」
「けど、巽の番号ほしいんでしょ? けどもし、君が社長室なんかに電話かけたって多分、繋いでくれないだろうね。僕は附和という名前があるし、オヤジとのことがあるから簡単に繋いでくれるけど」
 ああ、そういえば父親も偉い人だとか言ってたな……。
「じゃあなんですか? 私が体を……その、犠牲にして、番号を受け取るっていう、そういうことであなたは納得するんですか?」
「だから何もしないって」
「嘘。今キスしたいって言ったじゃないですか!」
「だから正直に言うと、そう。キスだけ」
「……」
 真剣な顔してよく言えるなと、飽きれた。
「あれじゃない? ここで君が体を犠牲にするかどうかなんて、実は全然関係なかったりするんじゃない?」
「……何がですか?」
「つまり、電話が繋がっても同じことって意味」
「……」
 本当は心の中で不安に思っていたことをズバリと指摘され、一気に沈んだ。
「君は今、繋がらない電話を無理につなげようとしてるんだよ? その意味、分かってる?」
 そうだ……。もし、電話が無理矢理繋がったって……どうして電話番号変えたの教えてくれなかったの? と、聞くだけだ……。
 だけど、それだって聞きたい。
 それを聞くために、附和と寝る?
 いや、相手はキスだけだと言っている。
「分かってる?」
「……はい」
「いいや、分かってない」
 附和の目がいつになく鋭い。
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