絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 恐ろしいくらい附和は無言になった。来た時はエレベーターの中でこれでもかというくらいの饒舌ぶりだったのにも関わらず、今は見たこともないくらい口がふさがっている。
 さっきはワイン2杯くらいは飲んでいたが、まさか酔って吐きそうというための無言でないことだけは、確かだろう。
 しかもその静けさが余計緊張させる。
 香月は俯き気味でレストランから出ると、附和に続いた。
 歩いてすぐそこのホテル。レストランスカイ東京から一件店舗をはさんだだけの新国際ホテルはまだ新しく、スゥイート限定の食事がすごいとかいう理由でテレビで特集していたのを思い出した。
 附和はどんどん歩いていく。もう、引き返せない。そして、ここで引き返す意味もない。
 香月は腹をくくって、同じようにエレベーターにもう一度乗り、廊下を歩いて部屋に到着した。
 ずっと附和は無言である。途中で違う人と入れ替わった可能性もなきにしもあらず。
 先に附和がドアを開け、中に入る。やっぱり普通の部屋じゃない、ここが話題のスゥイートか?
「え……」
 嘘……。
 ドアがまだ閉じていなかったと思う。
 附和はこちらが部屋の中に足を踏み入れた途端振り返り、その巨体を少し折り曲げて唇に唇を寄せてきた。
 キスは触れるだけ。だけどすぐに、かなり、力を込められて抱きしめられる。
「い、たい、痛い痛い!! 」
 足が一瞬宙に浮いた。
「そんな痛い?」
 ようやく附和が普通に戻った。
「痛いです! 」
 彼は冗談のつもりか、もう一度腕に力をこめてきた。
「いたいーってば!! キャー!! やめて!! 」
「叫ばないでくれる? 誰も人が来ないって分かってても、さすがにいい気しないよ」
 附和はようやく両手を離してくれた。
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