絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「……、四対さん、普通の人じゃないじゃん。今日だってすっごく忙しいし。ランチだっていつもその、会合とか兼ねてるみたいだし」
「だから、お前の会いたい、じゃないのに?」
 復唱されて、ようやく四対の顔を見た。
「お前が会いたいんじゃなく、あの女が会いたいがために、お前が作ったアップルパイなんか食わされて、俺どんだけ迷惑なんだよ」
 その、真剣な表情を見て、ようやく口を閉ざした。
「……」
 じゃあ私、どうすればよかったの?
 視線を下に下げたが、そこには、何も見えない。
 四対は白い箱を置いたままで、立ち上がった。
「そんなんじゃ周り、誰もいなくなんぞ」
 そんなつもりじゃなかったのに、そんな風に考えていたわけじゃないのに。
 ただ、鼻の奥がつんとして、涙が溢れた。
 それに気づかれないように、拭うこともせず、ただ前を見る。
「……なんなんだよ、俺ら」
 四対は立ったまま呟いた。
「……」
 香月は忙しく考えようとしてやめた。思いついたまま、言う。
「友達」
「だったら、気遣うんじゃねえよ。俺に堂々と言えよ。会社の女が紹介してって言ってんだけどって。そしたら俺だって、ちゃんとリアクションしてやる。
 ブスはダメだって」
 香月はふっと笑った。その拍子に一粒涙がこぼれた。
「そんなリアクションされても……、言えないよ」
「じゃあ会って、直接言ってやる。ブスはダメだって」
「ブスでもいいじゃん」
「それはお前の好みだろ? 俺は嫌なの」
 一瞬考える。四対は巽のことを言いたかったのだろうか?
「そもそも、あんな風にして俺が興味持つとでも思ってんのか!?」
「いや、わかんないけど……」
「第一俺、女いるし」
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