絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 なんとなく四対の顔を見た。だが、彼は立ったままでこちらを見てはいない。その堀の深い横顔だけが、何かを物語っているのかもしれないが、香月には何か分からない。
「そうだったんだ。この前、電話の後ろで声がした気がした」
「ああ……」
 四対は髪の毛をかきあげた後、「茶」と言いながら手を出した。
 香月はそれにしたがって、水筒の紅茶を半分、コップに入れて渡す。
「地位とか名誉とか、そういうものに一体どれだけの価値があるんだろうな……」
 四対はまた前を見たまま話し始めた。
「……ある人には分かんないのかもしれないけど、ない人からすれば、それはうらやましい物だと思うよ?」
「お前もそうか? 俺の金、ほしいと思う?」
 四対はこちらを振り返って聞いた。
「いや別に私は……」
「そうだろ?」
「いやでも、それはけど、まあもし、くれるって言ったらもらうかもしれないけど」
「100万財布にあるけどいる?」
「いらない」
 四対は、コップの紅茶を一気に飲む。
「……今日は俺が優しくてよかったな」
「大変申し訳ありませんでした」
 香月は心から頭を下げた。
「こんなまずい紅茶、お前が注いでなきゃ絶対飲んでない」
 空のコップを渡しながら言う。
「……、これも手作りなんだよ……」
「あ、悪い」
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