絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「ブラックリストに載るという言い方が分かりやすいかな。ハローワークなどでは仕事を斡旋してもらえないし、再就職は非常に難しい」
「…………」
香月はすがるような目で宮下を見つめた。
「子供がいるな……今も男手1人で育てているそうだが。それも難しいだろう。ゆくゆくは子供を施設に預け、自分でどうにか食っていくしかない」
「例えば、コンビニとか警備員なら雇ってくれるんですか?」
「募集の張り紙を見て自分でバイトする程度だろうな……。とても、子供を養っていける環境じゃない。それに、24時間保育園は保育料が必要になる。保育料は収入に応じて決まっているが、収入が少なすぎる場合は、入園させてくれないだろう。その場合は、国の施設に無料で預けるしかない」
「…………私に、罪を着せたかったのかもしれません」
溜息と同時に吐き出した。
「だが、防犯カメラを確認することは西野でも想像できただろう。もしあれが、防犯カメラの視覚になっていて、西野にシラを切られたら危なかったが」
「…………」
懲戒解雇……今懲戒解雇になっても、私なら、西野ほどダメージは受けずに済む。
「だから、香月への当てつけともとれる。それは、最初に俺も感じた。
西野はずっと香月のことが好きだったからな。子供のことでごたごたしても、香月と話す時が一番楽しそうだった」
まさか、宮下の口からそんなことを言われると思ってもみなかったので、驚いた。
「……佐伯に……、私がちゃんとしないから西野さんが期待して……それで前に進めない、みたいに言われました。……事故の時」
「ちゃんと? 断ってなかったということ?」
「断ってます、ちゃんと」
「俺にもそう見えたよ。眼中にないのがわりと態度でもみてとれた」
「けど、西野さん的には、付き合ってくれそうなのに、くれない、みたいな……なんか、そういうところがあったのかもしれませんね……。
これからどうするんだろう。そんな当てつけ程度で、一生が……」
「覚悟の上だったんだろうな。そこまでして、香月にメッセージを送りたかったのかもしれない」
言ってすぐに宮下は否定した。
「いや、そこまで平常心ならしなかっただろう。実際は金だろうな。魔が差したという方が遥かに大きいはずだ」