絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
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一応断ったが、
「私情を挟んでいるつもりはない」
と、否定され、巽が待つ駐車場まで宮下と一緒に歩いて行くことになった。
「こんな顔で帰ったら勘違いするだろ……俺ならな」
らしい。
男らしいのか、上司らしいのか、何か分からなかったが、巽がこんなことで動揺するはずもないし、黙って宮下の言う通りにした。
中央ビルの地下駐車場まではすぐ。お互い慣れた駐車場なので、巽が駐車している場所もすぐに把握できた。
黒のBMWは巽の愛車なのか、自分が運転するときはいつもそれを使っている。
「あのBMです」
車が見えた時、香月は言った。
「……昔、乗ってたな、香月も」
言われて久しぶりに思い出した。
「そうですね……」
近づいたところで運転席のドアが開き、中から巽が出て来た。
「あっ、ごめんね、遅くなって、あの……」
香月は駆け寄り、まず謝罪をする。
「ホームエレクトロニクス、新企画部長の宮下です。どうもすみません、突然呼び出してしまって」
宮下は巽を見たまま、堂々と社交辞令の挨拶を始めた。
「いえ……」
言いながら、巽はこちらの顔を見て、次いで宮下を見た。
「少し、思いが余ったようで、泣いてしまって……」
宮下の声に、香月は顔を伏せるしかない。
「……」
巽が無言のままの中、宮下は続ける。
「香月さんの同僚の横領が発覚して、その審査会に明日出てもらうことになりました。申し訳ありませんが、明日7時半頃、迎えに行きます」
「送りますよ、会議まで」
巽はさらりと言ってのける。
「そうですか……、では、お願いします。会議自体は10時からなので、送っていただけるのでしたら、9時頃本社にお願いします」
完全に私情を挟んでいるな、というのが伝わって嫌だった。宮下らしくない。
疲れて、ふっと溜息を吐いたと同時にバッと思い出した。
「あ! あそうだ、今日はこんなことで来たんじゃなかったんです!」
突然の大声に、宮下はギョッとした顔を向けた。
一応断ったが、
「私情を挟んでいるつもりはない」
と、否定され、巽が待つ駐車場まで宮下と一緒に歩いて行くことになった。
「こんな顔で帰ったら勘違いするだろ……俺ならな」
らしい。
男らしいのか、上司らしいのか、何か分からなかったが、巽がこんなことで動揺するはずもないし、黙って宮下の言う通りにした。
中央ビルの地下駐車場まではすぐ。お互い慣れた駐車場なので、巽が駐車している場所もすぐに把握できた。
黒のBMWは巽の愛車なのか、自分が運転するときはいつもそれを使っている。
「あのBMです」
車が見えた時、香月は言った。
「……昔、乗ってたな、香月も」
言われて久しぶりに思い出した。
「そうですね……」
近づいたところで運転席のドアが開き、中から巽が出て来た。
「あっ、ごめんね、遅くなって、あの……」
香月は駆け寄り、まず謝罪をする。
「ホームエレクトロニクス、新企画部長の宮下です。どうもすみません、突然呼び出してしまって」
宮下は巽を見たまま、堂々と社交辞令の挨拶を始めた。
「いえ……」
言いながら、巽はこちらの顔を見て、次いで宮下を見た。
「少し、思いが余ったようで、泣いてしまって……」
宮下の声に、香月は顔を伏せるしかない。
「……」
巽が無言のままの中、宮下は続ける。
「香月さんの同僚の横領が発覚して、その審査会に明日出てもらうことになりました。申し訳ありませんが、明日7時半頃、迎えに行きます」
「送りますよ、会議まで」
巽はさらりと言ってのける。
「そうですか……、では、お願いします。会議自体は10時からなので、送っていただけるのでしたら、9時頃本社にお願いします」
完全に私情を挟んでいるな、というのが伝わって嫌だった。宮下らしくない。
疲れて、ふっと溜息を吐いたと同時にバッと思い出した。
「あ! あそうだ、今日はこんなことで来たんじゃなかったんです!」
突然の大声に、宮下はギョッとした顔を向けた。