絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

「はあぁ……」
 BMに乗り込んだと同時に溜息が出た。
 先が、長い。もしかしたら、何も解決できないかもしれない。
「身代わりで捨身になるとは、いい度胸だな」
 車が駐車場から出たと同時に巽は言った。 
 一度それで助けてもらっている香月は、返す言葉がなく、ただ肩をすぼめる。
「あのね……。
 西野さんがさあ、分かる? 覚えてる?」
「ああ」
「西野さんが、懲戒解雇だって」
 そこで言葉を区切った。
 巽に説明して、自分の中のもやもやも全部吐き出したい。
 そう思っているのに、何も口からは出なかった。
「……それで?」
 言いながら、巽がこちらをちらりと見るのが分かる。
 だが、喉の奥が痛くて応えられない。
「……ほんとは……私、だった、かも」
 内容が途切れたせいで、巽には何も伝わっていない。 
 視界はぼやけていたが、まっすぐ前を向いていた。そうしていたかった。もう深く、考えたくなかった。
 音もなく、巽の手が触れた。
 左手をぎゅっと握ってくれる。
 今すぐ抱き着きたかった。全てを忘れて、投げ出したかった。
 だけど、投げ出すことも、忘れることも、今はできない。
「帰って、ご飯食べて、寝たい」
 明日、会社へ行くスーツが必要になる。だけど、そんなことはもう明日の朝でいいやと、東京マンションに寄って帰ることも放棄した。
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