絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

6日目


 巽のマンションは静かだ。防音加工がしてあるし、時計も良い物だから、ベッドで静かにしていると、自分の息以外は何も聞こえない。
 昨日一日寝ていた。
 食欲もなくて、何も食べなかったせいで、さすがにお腹がすいてきた。
 午前中は巽も一緒に隣でいてくれたが、お腹が空いたのだろう。しばらく前からどこかに行っている。
 家の中にいるかどうかも分からないが、探しに行くのも億劫だった。
 西野と話をした後、泣きながら帰って、そのまま巽の胸の中で寝てしまって、今に至る。 
 巽はただ、何も言わずに、静かに頭を撫でてベットに寝かせてくれたが、有給をとって今日が既に6日目に当たり、そろそろ密かに仕事開始しているのかもしれないな、という考えが過った。
 オーストラリアでも行けば良かった……。
 何度目かの同じ呟き。
 みんなに「居てくれてよかった」とは言われたが、実際はただ溜息を募らせるに過ぎない、どうしようもないことばかりだった気がする。
「何か食うか?」
 ドアが開いていることに気付かなかった。巽はそのまま入口から入ってきて言う。
「うん、お腹、空いたかも」
「何がいい?」
「ケーキ」
 言ってから気付く。
「あれ、なんか魚の匂いするね」
「魚もある」
「え、料理したの?」
「簡単な物だがな」
「へー……」
 香月はただ、真っ白な巽を見た。何の、不安も疑問も、嘆きもない、巽……。
「シャワー浴びて来い。その間にルームサービスでパフェをとっておく」
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