絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 って何ですか、この態度。
「えっ……」
 四対は既に空いたボードの方へ向かっている。取り残された香月は、どうするべきなのかとりあえず立ち尽くしていたが、すぐに四対は後ろを振り返って、
「グラス置いてこいよ」
 なんつー……。
 弟にさえそんな粗雑な言葉をかけられたことのない香月にとって、四対はひどく乱暴に感じられた。しかし、かといって、そこで反発する度胸もなく、仕方なくテーブルにグラスを置いて、言いなりになったのである。
 かくして、四対は本当に暇だったのか、ただの世話焼きなのか。飽きもせず、ドレスでうまく動けない香月を上手にコントロールして、ビリヤードがそれらしくできるまで付き合ったのだった。
 多分きっと彼は、A型。途中、若い女の子が何度かあっちでゲームをしようと誘ってきたがそれには決して乗らず、またその方を見ることもなく、ただ、コーチングに徹していた。およそ一時間半、そのレッスンは続くことになる。
 高いヒールに肩のあいたドレスの香月は、気を遣って体のあちこちが筋肉痛になることを予感しながら、ようやく、ソファで一杯のアルコールを飲むことを許された。
「なんとかうまく……」
「明日なんだけどさ、というか、もう今晩出るんだけど」
 できるようになりました、と愛想笑いでもってこのソファの場を和めよう、という算段は早くも崩れる。
「今晩?」
「オーストラリアに行くんだ。ジェットで」
 ジェット機……つまりやっぱりそれは、自家用だろうか?
「あんたも行くだろ?」 
 って何しに!?!?
「えっ!? いえっあの……」
 しかも、四対は平然とした態度で水を飲んでいる。
「私は明日仕事があるんで無理です」
「仕事?」
 明らかに表情が変わった。俺の言うことが聞けないのか! と言いたげである。
「すみません、あの、そうなんです。行ってみたいとは思うんですけど、その突然で都合が……」
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