絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 香月は最上に厳しく言った。
「……。でもさ、だから、千さんに頼めばいいじゃない!! なんでそうしないの!?」
 何故そんな一番良い方法を忘れていたのかと、自分のひらめきに感心した。だが、最上は、
「別れたんです、私も」
「別れたって……そんな……」
 そもそもあなた、結婚してるじゃないの……。
 長い沈黙が続いた。その間水野は一度コーヒーをおかわりした。
 香月は様々な案を考えていた。巽からもらった五十億を自分の物にするために通帳を取りに行く、という案。四対に言い寄り、なんとか二千万引き出す、という案。ユーリやレイジに正直に話して貸してもらう、という案。榊……夕貴……今井……宮下……紺野……。様々な名前が浮かんでは消えた。
 だけど、どこから借りても最上の借金が消えるわけではない。
 彼女はこの先ずっと子供を抱えて、どこかで仕事をしながらお金を返し続けなければならない。
 だとしたら、今離婚したところで、再婚も難しいだろう。
 家庭がまた一つ、壊れる。
 西野の悲惨な劇を見て、皆思ったのではないか。
 家庭を壊してはいけない、と。
「クラブというのは、どういうところですか?」
 香月はある程度覚悟をしてから聞いた。
 水野はもちろん真剣に答えてくれる。
「私があなたに紹介するとしたら、銀座でも有名な高級クラブ……アクシア、チック、グランクリュ……こういうところは、客の質が高いので安心して働けます。その分、客取り合戦も激しく、見た目だけではなかなか通用しませんが、あなたほどの外見とその素直な中身を兼ねそろえたホステスなら、まじめに働けばそこそこ数字は出せると思います。そこで安定して働けるようになれば、二千万なんてすぐです。もし、大物をつかめたとしたら、数ヶ月かからないかもしれない。そのプランでいくのなら、最上さんより、香月さんの方が向いているといえます。
 しかし……。今の昼間の仕事はやめて真剣にやらないと無理でしょうね。それだけ厳しい世界です。二束の草鞋では到底体が持ちません。
 香月さん、お酒は?」
 既にその方向で話しが進んでいたが、後にも引けないと思った。
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