絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「たしなむ程度です」
「一杯でも飲めるのなら大丈夫でしょう」
 どうしよう……夕貴に相談してみようか……。水野の表情があまりにも真剣になっていることに気づいて、唇を噛んでしまう。
「どうします? あなたなら、ほぼ採用だと思いますが」
 だけど……相談して、やめろと言われたら、他にどんな方法があるのだろうか。
 私しか……、最上を救えない。
 最上しか、子供を救えない。
 巽と別れたんだ。もう、昼間の仕事にしがみついておく意味もない。
「いいです、私が働いて、返します」
「先輩!!」
 最上は肩を思い切り掴んで悲惨そうな顔を見せたが、その表情はどこか安心しているようにも見えた。
「大丈夫。それより最上、子供を迎えに行ってあげて。今すぐ。私、エレクトロニクスやめるから。その代わり、最上が本社に行けばいいよ」
「そんな、何言ってるんですか!」
「いいの。私、結婚もしてないし、子供もいない。やりたいこともないから」
「先輩……」
 その表情は、明らかに解決に向かう安堵に変わっていた。
「最上さん、あなたは借金から逃れられるんです。こんないい方法はありませんよ。いい友達を持ちましたね。それに、香月さんならすぐに二千万くらい返せます。それだけ素質があると思いますよ。
 昼間の仕事は一度やめてもまた始められます。
 私はこうやって、何人もの人の仕事を斡旋してきましたが、その中でも群を抜いて素晴らしいものがあります。
 最適だと思いますよ」
 借金返済の後釜になったというのに、その褒め言葉はさすがに納得いかない。
「ね、最上……私は大丈夫。だから……あの、もう最上に用はありませんよね?」
 水野は頷いた。
「ね、行って。お願い。今行っても子供返してくれるんでしょ?」
「先輩……」
 明らかに最上の表情に笑みが見えているが、それを隠そうと、複雑な顔になっていた。
「早く行ってあげて。絶対待ってるよ。ね、何か……美味しい物。あれよ、餃子食べさせてあげてよ」
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