絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 香月は笑った。最上は大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、それでもしっかり笑った。
「今度は魚もね」
 最上にとってはどうだったか知らないが、香月にとって、それは永遠の別れでもあった。
 最上を立たせ、バックを握らせて、店の入り口まで送った。
 ただ彼女はすみませんとありがとうを何度も繰り返し、結局、二千万の借金だけを残して、店から去った。
 席に戻ると、水野が既に新しいプリント数枚をテーブルの上に並べ始めていた。
「あなたも人がいいですね、こんな人、初めてです」
 彼はファイルやらペンやらを準備しながら最後のシメにかかろうとしている。
「……今さっき彼氏と別れてきたんです。そうでもないと、こんな気持ちにはならなかったかもしれません」
「……。まあ、銀座の街もそれほど悪くないですよ」
 最上がなんとか幸せになる……。
 そう、私はもう十分幸せを満喫した、それで良いではないか……。
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