絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 巽はきっと、もう私のことなど忘れただろう。巽といた時間は、自分の中で、かなり長いものだったが、思えば妥協の連続であった。
 結婚したい、子供がほしい、会いたい、電話したい、メールしたい……。だけど全てそれは望んでも、思い通りにならなかったことばかり。
 ああそうか、今になってようやく気づく。
 そうだ、巽は私のことをそれほど好きではなかったのだ。
 だって、例えば、本当に好きならなんだって叶えてくれただろう。
 そうか……全く気づかなかった。
 涙が出た。それは、水野に抱かれていることが悲しいのではない。己の浅はかさに、今更気づいたことによる、悔しさの涙であった。
 水野は時々と言ったわりには、頻繁に体を求めてきた。ホステスは労働時間が短いので体力に余裕があったが、心はいつも無心であった。
 借金のために、水野に体を売る……。
 天井を見上げ、涙が出た。
 それでもやっぱり、巽が好きだ。 

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