絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
巽のことを思い出しながら、ゆっくりと歩道を歩く。足の裏は石ころや段の痛さで麻痺し、雨の冷たさも手伝ってほとんど感覚がなくなっていた。
アクシアの黒く高級感溢れる店舗が見えてくる。あの日、突然入って名刺を渡した店員に巽とつないでもらい、シティホテルでリュウの話しをしたことが鮮やかに思い出された。
そう、あの時はまだエレクトロニクスに勤めていて、その名刺を出した……。
歩道の脇に一台のロールスロイスが停車した。アクシアのまん前である。運転手はさっと出て来て、後部座席から出て来た偉そうな態度の男に傘を差し出した。
もちろん知らない顔。だけどその後に続いて車から出て来たのは。
傘のせいで顔が一瞬しか見えなかったが、もちろん見間違うはずはない。
突然自分の格好が、とても汚く思えた。雨に汚れたそのスーツは、場末のバーから出て来た、行く当てもない女のようであり、裸足の足はかわいそうなくらいに濡れていて。よく見ると端が少し切れていた。
巽がこちらを向いて、停止した。
それが分かったのと同時に、香月は逃げた。息を切らして、人の間をぬって走った。マンションまではすぐそこ。
アクシアに行って、何をしようとしたのか自分でも分からなかったが、ただ、彼の今ある道は、少なくともとても華やかで鮮やかであった。
私とは、違う。
マンションの前でなんとか一息ついたとき、ようやく後ろから追いかけられていたことに気付いて振り返った。
「……風間さん!」
「裸足で何やってるんですか!?」
風間は息を乱すこともなく、腕をつかんで足を見た。
「……今日は、靴を忘れたんです」
「え? 忘れたって……?」
風間はその後黙って顔を見つめてきた。何も聞かないところを見ると、概要は知っているのだろう。
掴まれた腕をそのままにしておくべきか、迷っていると風間の方から離した。と同時に、何かに目を留めるとさっとしゃがんだ。
「血が出てます」
素早く出したハンカチで足を拭こうしてくれたが、すぐに引っ込めた。
「いいんです! 家、すぐそこなんです」
「……ここ、ですか?」
風間は水野の高級マンションを見上げた。
アクシアの黒く高級感溢れる店舗が見えてくる。あの日、突然入って名刺を渡した店員に巽とつないでもらい、シティホテルでリュウの話しをしたことが鮮やかに思い出された。
そう、あの時はまだエレクトロニクスに勤めていて、その名刺を出した……。
歩道の脇に一台のロールスロイスが停車した。アクシアのまん前である。運転手はさっと出て来て、後部座席から出て来た偉そうな態度の男に傘を差し出した。
もちろん知らない顔。だけどその後に続いて車から出て来たのは。
傘のせいで顔が一瞬しか見えなかったが、もちろん見間違うはずはない。
突然自分の格好が、とても汚く思えた。雨に汚れたそのスーツは、場末のバーから出て来た、行く当てもない女のようであり、裸足の足はかわいそうなくらいに濡れていて。よく見ると端が少し切れていた。
巽がこちらを向いて、停止した。
それが分かったのと同時に、香月は逃げた。息を切らして、人の間をぬって走った。マンションまではすぐそこ。
アクシアに行って、何をしようとしたのか自分でも分からなかったが、ただ、彼の今ある道は、少なくともとても華やかで鮮やかであった。
私とは、違う。
マンションの前でなんとか一息ついたとき、ようやく後ろから追いかけられていたことに気付いて振り返った。
「……風間さん!」
「裸足で何やってるんですか!?」
風間は息を乱すこともなく、腕をつかんで足を見た。
「……今日は、靴を忘れたんです」
「え? 忘れたって……?」
風間はその後黙って顔を見つめてきた。何も聞かないところを見ると、概要は知っているのだろう。
掴まれた腕をそのままにしておくべきか、迷っていると風間の方から離した。と同時に、何かに目を留めるとさっとしゃがんだ。
「血が出てます」
素早く出したハンカチで足を拭こうしてくれたが、すぐに引っ込めた。
「いいんです! 家、すぐそこなんです」
「……ここ、ですか?」
風間は水野の高級マンションを見上げた。