絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 巽 光路は、疲労した目を補うために、くるりと椅子を回転させた。社長室から見える夜景は、日本でも最高級だと満足いくものであったが、それと同時に、たった一人の女を救えない自分に、溜め息をついていた。
 ここ数ヶ月の間に、四対と附和がこの社長室に乗り込んできた。そう、乗り込むという表現は正しい。特に四対に関しては、アポもとらず、初対面にも関わらず、たいそうな暴れっぷりであったが、そこまで香月のことを想ってなら、と、逆に安心して苦笑することもできた。自分が出て行かなくても、そうやって周りから愛されている彼女。四対の力ならすぐに解決するだろうし、附和も珍しく一人の女に入れ込んでいるようだし、このままなら手を引ける。
 そう自分に何度も言い聞かせた。
 心配する風間の手前、強がる癖がついているのかもしれない。
 調査では、あの、別れると飛び出した当日、最上春奈の二千万の借金を肩代わりし、クラブチックでホステスとして働き、水野が世話をしている……ということ。なんだかんだで頑張っていたエレクトロニクスも休職にし、東京マンションの家財道具一式を売り払い、夜の世界に完全に浸されている、ということ。
 ただそれらは全て、最初に四対が乗り込んでくるまで気づかなかったことだった。
「あんたがあいつをどっかにやったんじゃねえのか!」
 香月が飛び出してから数日後、社長室の前で暴れているというので中に入れてやるなりの一言だった。全く意味が分からなくて、しばらく無言で話しを聞いていた。
「おかしいだろ! 突然連絡がとれなくなって、会社も行ってねーってゆーじゃねえか!ルームシェアしてる奴も黙ってるし……あんただろ、あんたが仕組んだことなんだろ!」
「……誰のことだ?」
「ふっ、ふざけるな!! 香月だよ、香月愛のことだよ!!」
 驚きのあまり、言葉が出なかった。
「……何!?」
「なにそれ、芝居!? それとも、あんた、本当に知らなかったの? 嘘つけ、ここんとこずっと携帯つながらねーじゃねーか!」
「……」
「おかしいだろ! もう7日もだぞ!? 5日前には携帯変えてんだぞ!!」
「……俺は関係ない」
「じゃあ誰だよ! それともあいつが自分で携帯変えて、仕事も変えたってゆーのかよ!おかしいだろそんなの!」
「……人によるだろ、携帯や仕事を変えることくらい」
「てめぇ!!」
 四対は、襟を鷲掴みにし、持ち上げた。隅で見ていた風間が、すぐに仲裁に入ろうとしたが、四対の好きにさせることにする。
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