絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 彼女はこちらを見ずに、千の方を真っ直ぐ見つめた。
「今からオーストラリアに行くんだ。えっと……名前聞いてもいいかな」
 千は優しい物腰で包み込むように、笑いかけてきた。
「私は、香月です……」
「香月さんも行かない? ダイビングしようよ」
 え、まさか最上はダイビングの言葉に乗ってしまったのか!? その真意を確かめたかったが、最上は決してこちらを見ようとはしない。
「いえあの、その私は……そのまあどうにでもなるんですけど。最上は? その、帰る時間とか……」
「いいんです、たまには。だって私久しぶりなんですよ。それに、大丈夫です。ちゃんと仕事もしてきてますから」
「えっ……でも……」
 仕事? 家事のことだろうか……、それとも子供のことだろうか……。
 しかし、それ以上踏み込むこともできず、
「香月さんは樹(いつき)に誘われてない?」
「いや、私もさっき聞きましたけど……」
「じゃあ行こうよ。決まり」
 そんなかわいい顔で言われたって……庶民はそんな突然オーストラリアにダイビングなんて行けるわけないじゃないの……。
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