絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 今は冬、それを忘れさせる、完全な常夏のオーストラリア。
 最上の変貌ぶりに動揺しながら、千の笑顔に包まれて、ここまでやってきてしまったわけだが。この自家用ジェットが四対財閥のものであることは確かなようで、世の中にこんな風に金を使う道楽息子娘がいることを初めて知った最年長の香月は、既に疲労困憊していた。
 ここへ来てしまえば携帯もつながらず、結局会社もどうなったのか知らない。まあ、2日くらいなら病欠でもなんとかなるだろうと、ならないなら辞めたっていいと密かに思いながら、ホテルの一室で日焼け止めクリームを丁寧に塗りこんでいた。
 とにかく、1泊しかしないようなので、日曜の夜には最上を連れて帰らなければならない。それが自分の使命なのだと、強く言い聞かせていた。
 最上は多分きっと、育児疲れかなんかで、そんなときに千と出会ってしまい、感覚が狂ったのだ。きっとそう。このメンバーといると、私だって感覚が狂う。どこからともなくカードが出てきて、今もこうやって誰が払ってくれているか知らない部屋でドレスを脱ぎ、ティシャツに着替えて、四対が来るのを待っている。
 香月の目的はもちろん四対ではなく、シュノーケルだ。ダイビングチームとシュノーケルチームに分かれて遊ぶらしく、自分はもちろん最上と同じダイビングにするつもりだったが、四対の
「あんたはシュノーケルだよ」
という一言で完全に分別された。
 まあ、仕方ない。彼の足でここまで来たんだし、何も文句は言えない。
 かくして。午後、ようやく用意ができた十数名はそれぞれ分かれ、四対と香月、明らかに四対を狙って香月を敵対視している女子数名と、現地のインストラクター一名で行動することになった。
 ここまで来たのは最上が心配だったから。……いや、四対に断りにくかったから……?
 そんな意味の分からない自分の気持ちで足を踏み入れてしまったわけだが、
「すごい……綺麗……」
 な海を目の前に、しばらく周囲のことは忘れていた。
 時折、どう見ても四対が相手にしていない女子に「シュノーケル初めてってどんな貧乏なのかしら」と大声で言われたりもしたが、もうそんな罵声を気にする年でもなく、四対と2人で完全に無視を決め込み、意に反して2人で楽しんでしまった。
 最初は息をするのが難しかったが、慣れてしまえば、海底の世界に完全に魅了され、四対とタコを追いかけたり、魚の群れに突っ込んでいったり、笑いの耐えない時間はあっという間に過ぎていく。
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